男は思案顔で呟く「我が本領はこれからさ」
筆を執って言葉を綴れば大船に乗った錯覚
珠玉に思えた言葉さえも 翌朝駄作として散る
幻想の尻を追い回してついぞ生まれぬ傑作を空目する
外套の隠しから取り出し帳面に残す感懐
ああでもない と こうでもない を交互に弄り輾転
やっとこさ滲み出た言葉は剽窃じみて下卑ている
独創性の魔物に噛まれ 発想をくしゃと潰し、捨てる
「見くびるな 見くびるな
こんな駄作でわたしを定めるな
いつの日か いつの日か
きっといずれ傑作をお目に入れる
侮るな 侮るな
待って どうかこの大器が成るまで」
独り言ち、霧散する哀願
あーあ 空想だけでなにもしない 煮詰めるだけで世に出さない
お前の腹に秘めてるわけじゃ死ぬまで空想のままさ
凡作だろうと構わない それでもお前を語るがいい
いつまでそこで燻ってるの負け犬 殻を破りな
希死念慮孕む楽天家も 自己嫌悪のナルシストも
風采の上がらないモデルも 声が出ない音楽家も
何遍も無様な姿を晒してもなお生き抜こうとする
人を嘲笑って呪う暇があればお前はお前を生きろ
傑作はいつも次回作
あーあ 見下すだけでなにもしない 責めるだけでなにも生まない
いつかいつかの言葉をこねくり回す 高慢な鼻さ
圧し折ってやるよ 今すぐに 失意の底まで沈むがいい
失望の先で這い上がれよ 負け犬 何を躊躇う?
起死回生も逆転もない 愚鈍に筆を運ぶがいい
その世界の引き金を引け
屑籠に詰まった紙片
傑作になれぬ不発弾
拾い上げて火を点けてその音色をここに響かせろ
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