週末の大通り沿いを白い猫が歩く
ご自慢の鍵尻尾揺らし 人に媚びを売る毎日さ
その日だけの住処を求め 町から町へと
そんなある日出会ったのは心を病んだ男だった
男は白猫を持ち上げて死んだような目で見つめた
猫が逃れようと噛みつけば 咄嗟に地面に落とされる
男は住処に逃げ帰るも扉を少しだけ開けて
猫の新しい家主となった
戸惑いながら猫を受け入れた男は突然泣き出して
「猫にさえ優しくできぬ」と嘆く
そんなことには毫も興味を示さぬように 猫は寝息を立てるのだ
男は癇癪を起して妻子に逃げられた
あんなに可愛く思えた我が子にも今じゃ憎まれ
仕事に行く気力も失せて 取りつく島もなく
そんなある日出会ったのが吾輩だったのだという
男は日がな布団に潜り 碌に顔を出さなかった
「二度と誰も傷付けぬように一人で死ぬ」と宣った
そんな態度も薄暗い部屋も吾輩の気に入らなかった
いっそすべて壊れてしまえば
手当たり次第 壁を引き裂いて 重たいカーテンなど破って
男が住む狭い世界を壊す
病んだ男は猫の凶行に狼狽えて やっと綿の鎧を脱ぐ
彼は飛び出す 初春の風とやわらかい日差しが眼を突き刺す
駆け寄ってくる猫の姿を見て ふと笑う
誰の役にも立てないと嘆き 生きる価値はないと断じて
自分を殺したいと願う君は
不思議なことに誰のためにも生きていない猫を許してるじゃないか
餌を欲しがりゃ食うことに困らず 気に喰わぬことに噛みついて
気怠い昼にはつい寝過ごしても許されている
人と猫の間にどんな隔たりがあると言うのさ
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